実行委員長より

実行委員長よりごあいさつ


 第22回年次大会は、11月27日(土)、28日(日)東京芸術大学の千住キャンパスで開催されます。千住キャンパスは、2006年9月に閉校になった小学校をリノベーションして作られたまだ新しいキャンパスです。ここには、それまで取手にあった音楽学部音楽環境創造科とそれに対応する修士・博士課程の大学院音楽文化学専攻音楽音響創造分野・芸術環境創造分野が設置されています。
 音楽環境創造科は、専任教員6人の小さな所帯ですが、これまでの芸大の伝統的な研究教育活動に加え、作曲や録音技術から、音響心理学、アートマネジメント、演劇や身体芸術、そして文化研究やポピュラー音楽研究まで、音楽を中心にしながらもその隣接領域の今日的な課題に実践的に取り組んでいこうという野心的な学科です。キャンパスには、小さなオーケストラなら録音可能な設備を備えた最新のスタジオや演劇やパフォーマンスの公演ができる小ホールを備え、教員と学生と一緒になって、21世紀の音楽や芸術・文化表現のあり方を日夜模索しています。
 さて、今回年次大会に向けて、教員、学生ともども現在鋭意準備中です。メイン・シンポジウムは、「トランスナショナルな共同研究に向けて」というタイトルで、メイン・スピーカーとして、イアン・コンドリー(米MIT准教授)、シン・ヒュンジュン(韓国聖公会大学教授)、アンソニー・ファン(香港中文大学准教授)の三氏を迎え、それぞれの経験からトランスナショナルな共同研究の可能性について語ってもらいます。
 コンドリー氏は、『日本のヒップホップ:文化グローバリゼーションの現場』(NTT出版)の著作で知られる文化人類学者です。長期にわたるフィールドワークに基づいた本書は、日本のヒップホップが単なるアメリカからの輸入品ではないことを示し、文化変容の新しいプロセスを描いたものとして高く評価されています。シン氏は、韓国の60年代以降のポピュラー音楽の歴史を描いたジャーナリストとしてよく知られる一方で、韓国のポピュラー音楽研究のパイオニア的な存在として積極的に活動し、韓国のJASPMに相当するKASPMの初代会長になりました。近年は韓国ポップ(K-POP)のアジアにおける受容を、さまざまな国の研究者と共同で研究しています。ファン氏は、香港のポピュラー音楽研究を代表するメディア研究者で、今年夏に香港で開催された「第二回インターアジア・ポピュラー音楽研究学会(IAPMS)」の実行委員長を務めました。香港のみならず、中国本土や台湾など中国語圏に広がるポピュラー音楽の生産や流通を専門に研究する気鋭の研究者です。
 とりわけ、ポピュラー音楽は、ほかの文化領域と比較しても、国境を越えて伝播、生産、流通、消費されてきたにもかかわらず、これまでの既存の研究の多くは国境の枠組みに縛られがちでした。情報と交通技術のかつてない発達は、国境によって区切られたポピュラー音楽研究のあり方に新しい視点をもたらしつつあります。こうした海外の研究者とともに対話することを通じて、これまでのポピュラー研究のあり方や枠組みを再検討し、新しい研究の基盤が作っていければと考えています。
 学部の音楽環境創造科と大学院には、ポピュラー音楽の研究をする一方で、自ら作曲したり、演奏したり、音楽や文化イベントを企画したり、あるいは、雑誌やネットを使って情報発信している学生も少なくありません。会期中も、そうした熱気を感じてもらえるような仕組みや企画を実現できないかと現在話し合っているところです。こちらもぜひ期待してください。
 千住キャンパスは、東京北部の交通の拠点である北千住駅から徒歩5分の立地にあり、風情のある飲食店を抜けたすぐそばにあり、昔の東京の風景を経験することができる貴重な空間でもあります。11月にお目にかかれることを楽しみにしています。 (大会実行委員長:毛利嘉孝)


  • 最終更新:2010-10-06 14:46:19

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